栃木県立博物館
「鹿 人とのかかわりの歴史」
B5版71頁 平元
このコラムは”動物モノ”が大好きです。
さて今回の主人公は「鹿」。
鹿に焦点を当てた企画展も珍しいのではないでしょうか。
鹿といえば、奈良東大寺が思い出されるがごとく、神の使い、聖なる存在として大切にされてきた半面、鹿骨器のように人間の生活に不可欠な「道具」としても扱われてきたわけです。
中世武士が身に付ける鹿革のズボンのようなもの=行縢(むかばき)も思い起こされます。
江戸時代には大規模な鹿狩りで千頭単位で狩られたり、作物を食い荒らすという理由で鉄砲で駆除されたりと、受難が始まります。
でも、このころはまだ、人間の住む平野部や都市の近くでも普通に見られたとか。
本当の受難は、明治以後の農地開発・都市化だったのです。
執筆の研究者は、この受難は鹿を狩ったり駆除したりという目的からではなく、「目的がなく、無意識に行われるという点で(中略)大変重大な危機」であり、この受難が「もっとも大きく、まるで明治以降の日本の発展とひきかえに進んできた」とし、「このままの状況がすすめば確実に、鹿は私達の前から姿を消すことでしょう」と訴えます。
我々が近代化と引き換えに捨てたものは山のようにたくさんありますが、鹿もその中にいたのです。
この手の刊行物としては珍しく、メッセージを感じさせる図録です。