当店では、これまでも美術館や博物館の展覧会図録、たくさん扱ってきました。

なかには建築史系の「日本の赤煉瓦展」とか民俗学系の「星の信仰展」とか「これは面白い!」というのも多いのだけれど、売ってしまえばそれっきり。

しかも一般の書籍と違って書誌データもないので、人知れず世の中から消えていってしまう。

それが、なにやら残念で、折に触れて「面白い図録」を紹介していきたいと思います。

記録に残したい、というのが目的なので、必ずしも全部が「売り物」ではありません。どうか悪しからず。
(なお、このコラムは2005年3月より当店ホームページに掲載中のものをブログに移転したものです。)

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2007年11月18日

個人コレクターの力

29072.jpg早稲田大学図書館
「幕末・明治のメディア展−新聞・錦絵・引札」
A4版113頁 昭62



瓦版・明治の錦絵新聞そして引札などの江戸時代から維新期の「マスメディア」は、多くの人が興味を持つテーマですから、この分野の展覧会は思ったより多いです。

参考までに当店でこれまでに扱ったものを列挙しますと・・・

28276.jpg東京大学総合研究博物館
「ニュースの誕生−かわら版と新聞錦絵の情報世界」
A4版311頁 1999




28293.jpg日本新聞博物館
「明治のメディア師たち−新聞錦絵の世界展」
B5版143頁 2001




町田市立博物館
「明治の新聞展−羽鳥コレクション」
A4版102頁 昭61


板橋区立美術館
「新聞錦絵展−文明開化の事件簿」
A4版127頁 昭63


東京大学明治新聞雑誌文庫
「明治を読む−明治の新聞・雑誌展」
A4版48頁 昭52


これら瓦版や新聞錦絵については、多くの書物もあることですし、私などが書くことは何もありません。

ここは「展覧会図録」のブログですから、その視点で見たときに気付く点を一つ。
それは、この分野の図録のほとんどすべてに「○○コレクション」の副題がついていること。
具体的には個人コレクションを特別に公開する展覧会であったり、個人コレクションが博物館に寄託・寄贈された記念展であったり。
つまり、瓦版や引札・新聞錦絵は散佚しやすい・後世に残りにくい史料であるとともに、公的セクションはその保存にちっとも力を尽くしてこなかった、そして今日、われわれがこのような展覧会を見ることができるのは市井の個人がコツコツと集め続けてきたおかげなのだ−ということを示しているのです。

これら展覧会の白眉は、やはり新聞錦絵ですね。
月岡芳年や落合芳幾など絵を描いてただけあって、内容のニュースはともかく、美術品としても一級、美しいですよね。
こういう新聞錦絵は、発行当時いくらぐらいで売られていたんでしょうか?
きっと安かったんでしょうね・・・

posted by 氷川書房 at 17:29| この図録が面白い!

2007年09月30日

消えた系譜

28428.jpg渋谷区立松濤美術館
「武者絵−江戸の英雄大図鑑」展
2003 A4版143頁



江戸の芸術といえば?
まあ、誰でもパッと思いつくのが「浮世絵」ですよね。
では、「浮世絵の題材といえば」?
「浴衣姿のお姉さん」とか「富士山」とか「歌舞伎役者」とか・・。
現代人には、このぐらいしか思い浮かばないわけですが。

ところが、この図録によると、嘉永六年の浮世絵人気ランキングでは国芳の武者絵のほうが、広重の名所絵よりも上だったそうです。

現代人にはすっかり忘れ去られてしまった「武者絵」の世界を紹介した図録です。
180点におよぶ武者絵を「神代の豪傑」とか「源平の英雄」などジャンル分けして紹介してあります。

最近は五月人形もあまり飾られなくなったし、勇ましいもの・強いものに対する憧れ・関心は消えてしまったのでしょうかね。
それともプロ・スポーツに姿を変えて生きているのかしら・・。

それはともかく、作品の状態も良く、印刷も良く、非常に面白い図録です。

28289.jpgたばこと塩の博物館
「これを判じてごろうじろ−江戸の判じ絵」展
1999 A4版143頁



「判じ絵」とは、例えば、絵が風に飛ばされる情景を描いて「絵とばし=江戸橋」とか、そういうやつですね。
これも、民衆芸術のひとつのジャンルとしては、すっかり忘れ去られてしまった−と言っても良いでしょう。

でも、視覚表現としては消えてしまったが、我々のなかには脈々として生きています。
おやじギャグ というやつです。

江戸の民衆絵画は北斎や広重や国芳ばかりじゃないヨ−という図録をもう一つ。

28376.jpg渋谷区立松濤美術館
「浮世絵師たちの神仏−錦絵と大絵馬に見る江戸の庶民信仰」展
1999 B5版126頁


疱瘡や麻疹よけの「まじない絵」や「鯰絵」「有卦絵」など、あまりまとまって見る機会のないジャンルを集めた展覧会、非常に興味深い一冊です。


posted by 氷川書房 at 17:51| この図録が面白い!

2007年07月04日

カエルのこと

千葉県立中央博物館
「カエルのきもち」展
A4版163頁 1999

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最近は「絶滅」の可能性すら出てきたカエルを扱った図録。
博物館のなかには、自然史系の専門館、あるいは自然史部門が少なからずあるわけですから、図録の何割かは自然科学系のテーマを扱ったものです。
ただ、私がバリバリ文系で、内容がよく理解できないものですから、このコラムには一度も登場したことがありません。
今回、自然科学系初登場というわけです。

といっても、内容を見ていくと
・縄文人と蛙
・(河鍋)暁斎と蛙
・千葉県のカエルの方言
・カエルグッズコレクションのこだわりと楽しみ
といったぐあいに、歴史・民俗・美術にも目配りして、カエルの生態だけでなく、人間の文化との関わりも捉えようという、非常に面白い図録になっています。

今、心配されているツボカビのことも、最新の論文の紹介(1998年)というかたちで言及してあります。

なお、同博物館監修で同題名の書籍が、後に晶文社から出版されています。おそらくこの図録をベースにした内容だと思うのですが、全く同内容ではないようです。手元に両方がないので、ハッキリしたことは言えないのですが。
posted by 氷川書房 at 18:00| この図録が面白い!

2007年06月01日

海の中世

神奈川県立金沢文庫
「鎌倉への海の道展」
A4版174頁 1992

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鎌倉といえば政治都市のイメージが強いわけですが、実は宋と直結した貿易都市でもあり、中国文化が鎌倉(和賀江島)経由で東国に広まっていった−というあたりを仏像・陶磁・文書を駆使して示してくれる図録です。

船舶が主要な交通・輸送手段であった江戸期までは、現代人から見て意外にも思える地域と地域のつながりがあったりするわけです。
こういう話になれば、やっぱりこれでしょう。

国立歴史民俗博物館
「幻の中世十三湊−海から見た北の中世」
A4版151頁

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いまだ全体像が解明されていないとはいえ、東北・蝦夷・沿海州を含む北方世界の「首府」だった十三湊、そして、「夷千島王」を名乗り、「日の本将軍」の称号を持っていた領主安藤(安東)氏−歴史好きなら一度は関心を寄せたことがあるのではないでしょうか。
十三湊と安藤氏について、出土資料や文書を示しながら紹介した書物は案外少ないのです。
このテーマに関心のあるかたは必携の図録です。
歴博の図録だけに、学説的にも高いレベルを一般向けに要領よくまとめてあるのですが、「もし元寇が成功していたら、博多か十三湊が首都」となっていたろう−という、博物館の図録らしからぬ大胆な(笑)記述もあり、ちょっと驚きます。
でも、「かつては博多と並ぶほどの重要都市だったのか」ということをあらためて思い知らされ、海を介した地域と地域の意外なつながりについて思いをあらたにするわけです。

では十三湊と海路でつながっている「先」はどうだったのか−という疑問に答えるのが、この図録。

北海道開拓記念館
「日本海−空白の中世蝦夷世界をさぐる」
B5版42頁 昭62

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このほかに青森県郷土館「蝦夷錦と北方交易展」というのもありますが、現在当店に現物がありません。



posted by 氷川書房 at 13:12| この図録が面白い!

2007年05月28日

縄文のいろいろ

紹介したい図録はたくさんあるのですが、時間がなくてなかなか思うように掲載できません。
そういえば、日本経済新聞の書評欄の「半歩遅れの読書術」というコラムで、樺山絋一氏がこんな趣旨のことを書いておられました。
展覧会の図録は資料的にも価値の高いものが多いが、正式な書籍の扱いでないため、新刊書店は言うに及ばず古書店でもなかなか手に入らないのが惜しい−と。

氷川書房に来れば1300冊の図録が見られるのにね。

東海大学校地内遺跡調査団
「撚りと結びの考古学」
A4版13頁 2003

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東海大学構内の遺跡出土品を中心に同大学文学部展示室で定期的に開かれている展覧会の図録です。
縄文時代の「縄文」についてはあえて説明の必要はないでしょう。
その「縄文」にもいろいろな種類があるのだろうな−ということは想像がつくのですが、これはそれらを体系的に、実例を見せながら紹介した、面白い図録です。
私、初めて知ったのですが、縄の撚り方にも種類があるのだそうです。
撚る指の位置でも違うし、右利きか左利きか−でも違ってくる。
ということは、子細に分析すると、縄文土器を作った(文様をつけた)人の利き手がわかる−ということだろうか?
わずか13ページですが、とっても興味深い図録です。
posted by 氷川書房 at 11:00| この図録が面白い!

2007年05月26日

歴史を動かした技術

国立歴史民俗博物館
「陶磁器の文化史展」
1998 A4版213頁

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陶磁器は絹・木綿とならび、日本の歴史に深く影響を与え続けた「モノ」です。
それどころか、現代風に言うならば「ハイテク商品」であり「戦略商品」であった磁器が世界の歴史に与えた影響もはかりしれない。

この図録は、あるときは重要輸入品、あるときは重要輸出品、またあるときは主従関係や強弱関係を表象する贈答品−というように、日本史という織物の縦糸のように様々な場所に顔を出しつづけてきた「陶磁器」を、様々な資料を駆使しながら紹介した、非常に面白い図録です。
ちょっと要領よくまとまりすぎて、「食い足りない」という向きもあるかもしれませんが、まあとにかく、出土陶磁器だけでなく、絵画資料など多面的な資料を紹介できるのは、さすが歴博−という図録。

日本史の縦糸の役割を果たした「モノ」としては、これも忘れるわけにいきません。

国立歴史民俗博物館
「歴史のなかの鉄炮伝来−種子島から戊辰戦争まで」
2006 A4版199頁

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昨年開催された展覧会です。
鉄砲が日本の歴史に与えた影響についてあらためて述べる必要もないでしょう。
戦国時代の日本が、アジア一の「鉄砲大国」にならなかったら、朝鮮出兵もなかったかも知れないし、逆に、一斉に武器を放棄した三百年の天下泰平もなかったかも知れない。「ハイテクにっぽん」も誕生しなかったかも知れない。
この図録もまた、大変要領よくまとまっているのですが、面白いのは「火縄銃の威力はどれくらいあったの?」ということで、本物の火縄銃で、本物の具足や竹束、鉄板などを撃ってみた一章。もっとも、12.5メートルの距離から黒色火薬10グラムで十匁玉を撃ったところ1ミリ厚の鉄板を貫通した−と言われても威力があるのかないのか、素人にはよくわかりませんけどね。
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2007年04月08日

歴史のなかの「音」

山梨県立考古博物館
「古墳時代が聞こえる」
B5版43頁 1990

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「古墳時代が聞こえる」ってなにかと思ったら、「古墳時代の音の世界」というテーマでした。
歴史のなかの「音」の問題は、柳田国男や網野善彦、黒田日出男も何かの文中で触れていたと思いますが、やっぱり活字では、よほど想像力を働かせながら読まないと、腑に落ちてこないです。
その点、博物館の企画展には向いていると思うのですが、なかなか実例にお目にかかれませんでした(レプリカの銅鐸を叩かせてくれる博物館があったのですが、どこだか忘れてしまった・・・)。

この図録は、そんな数少ない例のひとつ。
会場で実際の音を聞けるようになっていたのかどうかはわかりませんが・・・。

面白いのは「音の出る武具」。
鈴がついていたようなのです。
戦国時代の合戦では、馬具がガチャガチャいって敵に見つからないよう荒縄で縛った−なんてシーンもありますが、敵に見つかりやすい武具ではしょーがない・・・と思うのは後代の人間の発想なのでしょうね。
大将がシャランシャランと音をたてながら進んでくると、なにか荘重な感じがしたのかもしれませんね。
posted by 氷川書房 at 18:43| この図録が面白い!

2007年04月03日

古代の碑文

国立歴史民俗博物館
「古代の碑−石に刻まれたメッセージ」
A4版120頁 1997

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この図録、地味そうなテーマにもかかわらず人気があるんです。
なんでかな−と思ったら、
古代の碑文って全国に16例しか現存しないそうです。
それでもって、そのすべての碑の銘文から訓読から詳しい解説までが、この一冊にまとめられているのです。
研究者でない、われわれ一般人でも手元においておきたくなる本です。

これだから企画展の図録はあなどれません。


posted by 氷川書房 at 18:45| この図録が面白い!

2007年03月05日

明治維新を支えた人々

山口県立山口博物館
「高杉晋作と奇兵隊展−東行生誕150周年記念展」
平元 B5版160頁

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明治維新で活躍した個人に焦点を当てた展覧会、案外少ないように思います。
当店が扱った中で、ざっと思いつくものは・・・
陸奥宗光 勝海舟くらいですか。
最近は、NHKの大河ドラマとのタイアップ企画展で、徳川慶喜と新選組を良く目にします(規模が大きい展覧会ですから部数も多いのでしょう)。
ともに「賊軍」であり、以前なら脚光を浴びる人達ではなかったのですが。
一方で最近の時代劇や時代小説では、西郷隆盛や大久保利通、伊藤博文などは、あまり良く描かれない場合も多くなりました。
そんな中で、絶対「良い役」なのは坂本龍馬と高杉晋作ですね。

もちろん、この「高杉晋作展」は時代劇じゃありませんから、豊富な史料を照会しながら客観的に記述してあります。
特に白石正一郎はじめ奇兵隊を財政的に支えた人々を特に紹介しているのは面白いですね。
明治維新を本当に支えたのが、どんな階層のどんな人々だったのか、ヒントを与えてくれます。

面白いのは慶応元年の長州藩の内戦−「正義派」と「俗論党」の戦いですね−の経過を詳しく追った一章です。
私は、高杉ら「正義派」が洋式兵器で大勝した−という印象を持っていたのですが、戦死者で見ると「正義派」17人に対し「俗論党」22人 だそうです。
これは「辛勝」ですね?
むしろ戦闘で勝ったと言うよりも、時の勢いで勝った−と見るべきですか。
posted by 氷川書房 at 11:59| この図録が面白い!

2007年02月06日

縄文と弥生

国立科学博物館・国立歴史民俗博物館・読売新聞社
「縄文VS弥生展」
2005 A4版139頁

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表紙の写真には、いささか「引いて」しまうのですが・・・
新聞社の事業部主催企画展のゆえ、広く関心を呼ぼうと、奇抜さを狙ったのでしょうか?
でも、表紙でたじろいではいけません。
表題の通り「縄文人」と「弥生人」、「縄文文化」と「弥生文化」の違い・共通点について扱っています。
具体的には
「骨からわかる運動能力」
「微少な生物資料からわかること」
「骨の元素分析(食べたものを知る)」
「動物とのつきあい」
「お母さんの骨盤に刻み込まれた赤ちゃんの痕跡」
など、いかにも、われわれ歴史好きの一般人が興味を持ちそうなテーマごとにまとめられています。
冒頭章は「あなたのなかの縄文と弥生」ですが、人間、誰もが一度は抱く「自分はどこからきたのか?」という素朴な問いが、歴史への関心の根源であるとするならば、歴史教育機関として非常に本質的なテーマを提示したとも言えます。
DNA分析などを利用した最新の研究成果を、資料写真や統計図など視覚材料を使って、全体像がつかめるように要領よくまとめる−という博物館図録の教科書のような好図録だと思うのですが。
氷川書房が選ぶ2005年ベスト図録(笑)。

関連で以下も挙げておきます。
こちらは人類学。
テレビ番組「NHKスペシャル」の関連企画でもあり、同名の書籍も出ていますので、図録の存在価値はどうか?−ですけれども。

国立科学博物館
「日本人はるかな旅展」
2001 A4版117頁

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posted by 氷川書房 at 12:27| この図録が面白い!
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